精細管から精子を採取する術法

micro TESEの費用は30~50万円ほどになります。これは、新しい技術のため、保険適応とならず、自費での診療となるためです。ちなみにアメリカでこの手術を行った場合は、1万7000ドル(約140万円ほど)かかりますので、日本の価格はかなりリーズナブルと言えるでしょう。

手術は基本的に全身麻酔で行います。局部麻酔でも可能なのですが、時間も長くかかり、患者の体のことを考えても全身麻酔で行う病院がほとんどです。しかし、局部麻酔で行うことのメリットもあります。それは、患者と対話しながら手術を進めることができる、という点です。全身麻酔だと、患者の意識はありません。もし、よい精管が発見できなかった場合、目が覚めたときにそのことを知らされることになります。そのため、いまいち納得感が得られないということもよくあります。しかし、手術中でも意識のある局部麻酔であれば、顕微鏡の画面を一緒に見ながら、どのように手術が行われているのかを医師とともに確認することができるため、患者の納得感も高くなるでしょう。このときの手術は精索ブロックという方法を使います。術中に痛みを感じることはほぼないのですが、自分が手術されているところを絶対見たくない、という方もいるため、そのときは全身麻酔や、局部麻酔でも画面では見せない、などという配慮ももちろん行っています。

手術の時間は、精子の有無を確認する検鏡という工程に時間がかかるため、片方の精巣の10か所ほどを見たとしても、手術終了まで1時間ほどかかります。左右どちらも行うとしたら倍の2時間はかかります。早い段階でじゅうぶんな精子量が確保できれば、20分ほどで終わる場合もあります。また、クラインフェルター症候群の方は精巣が非常に小さく、両方でも1時間かからないこともあります。

慣れた医師だと、精細管の具合で、精子が存在するかどうかがわかります。日本の手術の場合は、長くても両側で2時間以内に終わります。アメリカでは長いときは4時間以上かけることもあるようですが、2時間以上、手術を引き延ばしたところで、精子回収率が上がるわけではない、と考えています。

ベテラン医師の場合は、顕微鏡でパッと見た段階で精子がいるかいないかを判断できます。しかし、精細管が不均一で、絶対に採取できるだろうとふんだ精細管において、精子が全くいない、という事例もあるため、油断は禁物です。

もし、片方の精巣だけで精子を回収することができなかった場合、もう片方の精巣も開いてみるべきだと考えます。この、もう片方の精巣から精子が見つかる確率が5~10%程度あるためです。患者の負担にもなりますが、片方だけであきらめてしまうのはもったいないと思います。

術後の痛みはそれなりに覚悟が必要で、患者の方は「金玉を蹴られたあとのような痛み」と表現します。皮膚の切開は約3cmほどで、陰嚢の皮膚は痛みをほとんど感じないため、ここが痛むということはほぼありません。しかし、精巣の外側にある白膜の切開がどうしても長くなることから、術後の痛みはかなりあります。痛みをなるべくなくすようにいろいろ考えられてはいるのですが、今のところ「まったく痛みはなかった」という患者はいないようです。普通の仕事であれば手術の翌々日から復帰が可能です。違和感は術後5~6日ほど感じるようです。また手術自体は日帰りでも可能ですが、施設によっては1泊することもあるようです。

手術後に考えられる合併症は、陰嚢にできる血腫です。だいたい200例に1例の割合でこのようなことが起こる場合があります。血腫ができると、陰嚢が腫れます。また、別の合併症として男性ホルモン値の低下が考えられます。男性ホルモン値が正常の方はまず大丈夫なのですが、クラインフェルター症候群のようにホルモン値がもともと低い場合は、手術によりさらに数値が低くなってしまうことも考えられます。男性ホルモンがあまりに減少しすぎると、勃起不全や性欲低下、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症などが起こる可能性が高まるため、術後は定期的に採血など行い、チェックをする必要があるでしょう。

現在、この手術をできる医師はたいへん少ないです。そのため、手術ができる医師のもとへ、遠方からわざわざ足を運ぶ方も少なくありません。1回目で精子回収ができなかった場合は、患者は別の医師に2回目を行ってもらいたい、と希望するのですが、1回目にベテラン医師によるmicro TESEを受けた場合、2回目でもまず精子の採取はできないでしょう(1回目がmicro TESEではなかった場合は、まだ望みはありますが、最初の手術のダメージによりあまり期待はできません)。また、1回目の手術で精子の回収はできたものの、顕微授精を数回することで使い果たしてしまい、再度採取を行う、ということもあります。しかし、非閉塞性無精子症の場合、1回目の手術でいい精細管を採取してしまっているので、2回目では同じぐらいの量が採取できない可能性があります。もともとの精子の量が少なければ少ないほど、2回目で採取できる確率も下がるのです。

アメリカでは、凍結精子はほぼ使用しません。そのため、採卵のためにmicro TESEを行うこともあります。そうなると、男性の負担はかなり大きくなるでしょう。5~6回ぐらいまでは男性ホルモンの低下などの合併症が起こることはないようなのですが、繰り返すたびに精子の回収率が下がるのは同じことです。

また、精巣精子が採取できたとしても、顕微授精という高いハードルがあります。1回の顕微授精で妊娠できる確率は20~30%程度。正常男性の射出精子と比べると、その成功率はかなり落ちます。採取して凍結した精子が尽きるまで顕微授精を行うのですが、やはり精子を採取できたとしても子供ができない夫婦が30~40%ほどいます。原因として考えられるのは、精子、および卵子の質の低下です。顕微授精まで行った場合の金銭的負担もかなりのものになります。

micro TESEにより運動精子が採取できると、顕微授精の成績も良くなると考えられるのですが、逆に採取できた精子が非運動精子であり妊娠できないこともあるため、そうなると患者には負担のみ残る、という結果になってしまいます。精子が1匹もおらず、精子細胞だけが存在するということはほぼないので、運動精子が採取できない場合は、精子になる前の精子細胞を用いて顕微授精を行うという道もあります。ただ、精子細胞を使うよりも質の良い精子を用いることが一番よいのですから、そのためには手術において、良い状態の精細管を必死で探すということはもっとも重要です。

 

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