深刻な合併症の予防が、薬物治療の真の目的

血圧を下げることで、病状がかえって悪化する?

薬物治療をする真の目的は、単に血圧を低下させることではなく、高血圧症によって、脳、心臓、腎臓などに、深刻な合併症が及ぶことを予防することです。

ほんの半世紀前前までは、高血圧症は、治療をすべきでない病気とされていました。高血圧は必須である(essential hypertension)といわれていたのです。つまり、腎硬化症のような病状では、腎臓が萎縮して動脈硬化が進行しているので、血圧を下げると血流が低下し、病気を悪化させることになると信じられていたのです。

しかし、近ごろでは、高血圧症は「一次性高血圧」と「二次性高血圧」とに分類されており、ほとんどの高血圧症(98%)が「一次性高血圧」で、「二次性高血圧」の占める割合は、ごくわずかなのです。

では、高血圧症は降圧し、治療すべきであるという考え方は、いつごろ、なぜ起きたのでしょうか。

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治療をすれば、合併症の発症率は低下する

1970年、一次性高血圧症の治療を受けている人は、受けていない人に比べ、合併症の発症率が低いことがわかりました。医学的、かつ科学的に確実な証拠が示されたのでした。

これは、無作為二重盲試験という厳密なテストに基づいて行われました。当時、降圧薬として処方される、おおよそ唯一の薬剤であった利尿薬を服用した患者群と、非服用群を5年間に亘って比較観察し、合併症の発症の有無が調査・分析されました。脳卒中、心筋梗塞、心不全などの発症例数には、統計的な差がみられ、利尿薬群では良い結果が得られました。

一方、ある街の全住民を長期に亘って観察するという、健康診断による調査も行われました。なかでも、米国ボストン市近郊にて行われたフラミンガム試験は有名です。この試験は、今日まで、40年以上、調査が続いています。

年齢補正をしたうえで、高血圧症についてみると、高血圧症の人は、正常血圧の人に比べ、脳卒中、心臓発作、末梢動脈疾患、心不全などの合併症が数倍以上にもなることがわかります。

日本でも、同様の調査が行われ、福岡市の近郊にある久山町の試験が有名です。数十年の経過を辿った調査結果によると、安静時の血圧が130mmHG/85mmHg以下の人に比べ、血圧の高い人ほど、脳卒中に至る確率の高いことが示されました。

血圧の高さは、正常血圧130/85mmHg未満、正常高血圧値130~139/85~89mmHg、I度高血圧140~159/90~99mmHg、Ⅱ度高血圧160~179/100~109mmHg、Ⅲ度高血圧180/110mmHg以上という具合に分類されるようになりました。

 

合併症の原因となる、高血圧症以外の危険因子

さらにたくさんの調査からわかったことは、高血圧症の血圧の高さのみならず、その他の危険因子の有無が合併症の発症に重大な影響を及ぼすということです。

高齢(65歳以上)

喫煙習慣

脂質の異常(低HDコレステロール血症40mg/dl未満、高LDLコレステロール血症140mg/dl以上、高トリグリセライド血症150mg/dl以上)

肥満(BMI25以上、特に上半身型肥満、いわゆるリンゴ型)

メタボリック症候群

血縁の中に若年(50歳未満)で心血管病を発症した人がいる

糖尿病(空腹時血糖126mg/dl以上、負荷後血糖2時間値200mg/dl以上)

内蔵の臓器障害(慢性の脳障害、心臓病、腎臓病、血管病など)

眼底に高血圧性網膜症がみられる

などです。

こういった危険因子が多くある人ほど、同じ高血圧症でも、合併症のリスクが高くなります。

①     高血圧以外には、なんらの危険因子もない場合(リスク第一層)

②     糖尿病以外の1~2個の危険因子、メタボリック症候群がみられる場合(リスク第二層)

③     糖尿病、慢性腎臓病、臓器障害、または、心血管症のうち、3個以上の危険因子のいずれかがみられる場合(リスク第3層)

の3段階によって、リスクの程度が決まります。

むろん、リスクの度合いの高い人ほど、血管の管理、その他の危険因子の治療を厳重に行う必要があります。

実際、日本高血圧学会のガイドライン(2009年、改訂版)では、血圧の高さとその他の危険因子を組み合わせ、合併症のリスクを層別に示しています。リスクを低、中、高の3段階に分けて、薬剤を用いた治療の必要性やその時期の判断の目安にするのです。

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